【資産防衛】租税条約の有無の重要性
【連載コラム】所得税ゼロのパラダイス(第3回)
日本の法人税率は世界でもトップクラスの高税率で、経営者にとって過酷な状況です。世界では名だたるグローバル企業が、各国の税制を徹底的に研究し、税率・税務的に有利な国を巧みに利用する「グローバル節税」を積極的に経営戦略に取り入れています。
「したたかさ」を抜きにしては、今日の厳しいビジネスを勝ち抜いていくことはできません。積極的に海外に打って出て、グローバルなタックス・プランニングを展開した者だけが生き残れるのです。
この連載では、税率が低い国=タックス・ヘイブンをどのように選べばよいか、詳細にアドバイスしていきます。
今回は、タックス・ヘイブンを活用していくため、その特徴についてお話しします。
(第2回『活用したい「タックス・ヘイブン」の特徴』はコチラから)
※本連載は2014年10月刊行『究極のグローバル節税』(幻冬舎メディアコンサルティング刊)からの抜粋です。
書店などでは「国際租税法」というタイトルの本をよく見受けますが、世界共通の国際租税法が存在するわけではありません。各国の国内税法と各国がそれぞれ締結した租税条約をまとめて「国際租税法」と称しているのです。どのような国であれ、基本的には税収がないと国家自体が破産してしまいます。
そこで課税権が存在するのですが、一方で自国の個人や会社が外国取引を頻繁に行えば、そこには自国と外国から二重に税金を課税されるリスクが出てきます。これを回避するのが租税条約であり、自国と外国とで税金をどのように配分するかの取り決めが規定されています。
租税条約は国ごとに結ばれていますが、OECDのモデル租税条約があり、OECD加盟国は多くの場合、これをモデルに条約を締結しています。
日本は2014年6月1日現在、61の租税条約を84か国・地域と結んでいます(図表参照)。条約数と国の数が合わないのは、旧ソ連や旧チェコスロバキアとの条約が複数国に承継されたりしているためです。
また税金に関する情報交換協定のみを締結している国・地域もあります。
ところで、日本政府はタックス・ヘイブンとは租税条約を結ばない方針を採っていますが、以下の低税率国や租税特典国は日本との租税条約を締結しています。
アジア:シンガポール、マレーシア、香港
ヨーロッパ:オランダ、スイス、ルクセンブルク、アイルランド、ロシア、ルーマニア、グルジア、スロバキア
日本と租税条約を結んでいる国に会社をつくったときの主なメリットは、以下のようになります。
・配当、利息、ロイヤルティの支払い、受け取り時にかかる源泉所得税が軽減される
(通常20%とされる部分が、5%から10%程度となります。ただし、ロイヤルティについては日米、日英、日仏、日豪、日スイス間に限っては原則として免税です。湾岸産油国との租税条約については、日本とクウェートのものが2010年度に発効し、政府系ファンド保有の日本国債、預金の利子は非課税です。またブルネイとの租税条約は2009年に発効済みで、同様に政府系ファンドなどの利子が非課税となっています)
・給与所得について短期滞在者の免税の特例が使える183日ルール
・投資国との租税条約で特定の所得について二重課税が避けられる
・日本で課税されない所得がある
「トリーティーショッピング」という言葉があります。これは直訳すると「条約漁り」という意味で、たとえばA国とB国の租税条約の内容で、有利に使えそうな部分があれば、C国の居住者がその部分を利用することです。
具体例で説明します。
ある日本企業が中国に投資しようとします。中国と日本間には租税条約があり、利子・配当には10%、ロイヤルティは10%の源泉税が中国でかかり、株式売却などのキャピタルゲインが中国で発生すれば中国で課税されると決まっています。
一方、中国はモーリシャスというタックス・ヘイブンとも租税条約を結んでおり、モーリシャスの企業経由で中国に投資した場合は、中国でもモーリシャスでもキャピタルゲインには税金がかからないということになっています(不動産保有会社の株式は除く)。
他方、日本とモーリシャスには租税条約がありません。そこで日本企業はモーリシャスに設立した子会社を通じて中国へ投資することで、直接投資では必要となる利子・配当税やロイヤルティへの源泉税やキャピタルゲインへの課税を免れることができるというものです。
しかし、このようなことができたのは2007年12月までの話でした。2008年1月1日からは条約が改正され、モーリシャス企業が中国企業の株式などを25%以上持ち、その一部あるいはすべてを売却した場合には、中国での源泉所得税がかかることになりました。
なおトリーティーショッピングに関しては、租税条約の特典の利用について、条約のなかに制限条項が設けられています。日本が締結している条約に関しては、日米、日仏、日英、日豪、日香港、などの条約がそれに当たります。
租税条約締結国がどこの国と条約を結んでいるかも重要
次に日本との条約締結国が、日本以外ではどこの国と、どのような条約を結んでいるかを確認するのも重要なことです。これは、日本からA国そしてB国に投資する際、AB国間で配当、利子、ロイヤルティなどの源泉所得税が免税であれば、日本へのそうした果実の還流時にネット金額が増えるからです。
日本と異なり、ヨーロッパでは旧宗主国の国が多く、低税率国やタックス・ヘイブンと租税条約を結ぶ国が数多くあります。
たとえばフランスは、キプロス、モーリシャス、アラブ首長国連邦、モナコ、イギリスはアンティグア・バーブーダ、バルバドス、キプロス、ガーンジー、マン島、ジャージー、モントセラト、セントキッツ・ネイビスなどと租税条約を結んでいます。ドイツやイタリアもモーリシャス、アラブ首長国連邦、キプロス、マルタと租税条約を結んでいます。
アジアでも、中国がバルバドス、モーリシャス、キプロス、マルタ、セーシェルなどのタックス・ヘイブンと租税条約を結んでいます。ベトナムはセーシェル、台湾と、タイはキプロス、モーリシャス、セーシェルとそれぞれ租税条約を結んでいます。
次回は、タックス・ヘイブンの費用対効果について見ていきます。■
※本連載は2014年10月刊行『究極のグローバル節税』(幻冬舎メディアコンサルティング刊)からの抜粋です。
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